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崩壊の危機にあるスリランカの医療制度

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Chaotic scenes at a government hospital outpatients clinic. Credit: Lanka House

【コロンボIDN=ヘマリ・ウィジェラスナ】

かつて南アジアで憧れの的であったスリランカの無償医療サービスが、現在の経済危機に直面して崩壊寸前にある。医薬品の不足、医師の流出、公務員の医師を60歳で引退させようとする政府の頑なな方針などが背景にある。

政府医療従事者協会(GMOA)によると、同国の公立病院のほとんどで90種以上の基本的な医薬品が不足しているという。

GMOAの事務局長であるハリサ・アルトゥゲ博士は、「この国の医療ネットワークが医薬品不足のために崩壊してしまう危険がある。」とIDNの取材に対して語った。「現在の医薬品不足は慢性的に生じている。コロンボの分院でも、パラセタモールやピリントン、サリヴェといった基本的な薬が足りない。」脳卒中を予防するアスピリンのような緊急の薬品も、同国最大の病院であるコロンボ総合病院においてすら不足している。

スリランカの医療サービスを脅かすもう一つの大きな要因は、専門医の不足である。経済危機により、医師の国外流出が相次いでいる。一方、公務員を60歳で定年退職させるという政府の政策も、この問題に拍車をかけている。

専門医やその他の医師の流出が相次いだことで、アヌラダプラ病院の児童病棟は最近閉鎖に追い込まれた。病院関係者によると、同病院には同時に60人の患者を収容する施設があるが、病院関係者によると、アヌラダプラ教育病院の医師9人(うち小児科医4人)が離職している。子供たちを治療する医師がいないため、当時そこにいた患者たちは他の病棟に移らざるを得なかった。

児童病棟の閉鎖に伴って、ラジャラサ大学の医学生たちが訓練を受ける機会も失われた。同病院のドゥラン・サマラウィーラ病院長は、「医師はいなくなったが何人かは言えない。」とIDNの取材に対して語った。しかし、児童病棟は、必要な専門家を政府が供給したことで再開した。別の病棟に移されていた子どもたちも戻ってきた。

1年前の金融危機の到来以来、専門医を含む500人近いスリランカ人医師が出国し、その多くが保健省に連絡さえしていない。GMOAによると、無届退去に加え、若い専門医を含む52人の医師が、保健省に連絡せずに出国したため、ここ2ヶ月の間にポスト明け渡しの通知を受けたという。

医師が辞めていく一方で、政府は特に重症の病気に対する薬剤不足の解決策を持ちあわせていないようだ。無力な患者とその家族は、この危機的状況に苦しんでいる。ここで最も深刻な「問題」は、ある病気が不治の病になる前に行うべき手術が、薬剤不足のために遅れていることである。

スリランカは経済危機に直面し、医薬品の輸入にドルを割り当てる体制が整っていなかったとみられている。政府はインドの融資枠組みの下で、1億1400万米ドル相当を国営製薬企業に割り当てたが、医薬品の購入に使われたのは6850万米ドルに過ぎなかった。最近、スリランカ医師協会(SLMA)は、緊急性の低い医薬品のためにその資金が使われていたことを明らかにした。

国立感染症研究所のアナンダ・ウィジェウィクラマ博士は、インドの信用機関からの融資を得て輸入した医薬品の8割が登録されておらず、患者の手に届いていないと語った。これにより腎臓移植手術が中止される恐れがあり、緊急性の低い手術も中止せざるを得なくなる。

スリランカ麻酔科学集中治療大学の学長であるアノマ・ペレラ博士は最近の記者会見で、医療システムが崩壊の危機に瀕していると警告した。最も深刻な問題は、公立・私立病院における麻酔薬の不足で、このために帝王切開を伴う手術が遅れることになるだろう。また、麻酔医や集中治療医による手術は、医薬品不足のために行えなくなる可能性がある。

現在、公立・私立病院で抗生物質が入手しにくくなっている。そのため医師らは、薬を無駄遣いせず、自分の健康状況に気を配って生活するよう市民に呼び掛けている。

多くの公立病院の医師らは、IDNの取材に匿名でしか応じなかった。ある公立病院の医師は、「鉗子が不足しているので自身の病院では腹腔鏡下手術を約3カ月行えていない。」と語った。そのため病院の腹腔鏡下機材は3か月間も使用されていない。しかし、民間の病院や診療所には鉗子があるという。

別の政府系病院に勤務する医師は、「心臓発作患者の検査に必要な試薬が不足しているため、現在公立病院では検査できない。このため公立病院を訪れる患者は検査のために民間部門の研究所に行かなければならない。」と語った。別の主要な公立病院の医師によると、ここ数ヶ月、数種類の抗生物質が不足しているとのことである。

無作為の調査で、コロンボ国立病院に来院した何人かの患者は、まだいくつかの医薬品が手に入らない、と語った。

コロンボから約30キロのパナドゥラから通院しているシャンタ・カルナラスナさんは、「診療所には皮膚病の治療のため月に一度来ています。前回は、種類の薬が手に入らないと言われ、外部で入手しました。今回も状況は同じでした。しかし、薬は高くなっています。

毎日収入があるわけではない私のような人間には厳しい状況です。」と語った。

最近蔓延しているウィルス性熱病のために治療に来ていた別の患者は、やはり処方された薬を入手できず、外部で手に入れたという。

他方で、GMOAのスポークスマンであるハリサ・アルスゲ博士は、「昨年既に500人の医師が出国しており、もし60歳定年がこのまま厳格に適用されたならば、今年末までに300人の専門医を含む800人の医師が職を離れることになります。」と指摘した上で、「厳しい状況が訪れることになる。」と警告した。

「(無許可で海外に行った)公務員の医師を無給休暇扱いにしたとしても、問題の解決策にはなりません。また奨学金で海外に渡った医師も、海外で研修を受けているインターンも帰ってきません。問題は、専門医の問題で悪影響を受ける臨床サービスだけではなく、医療分野の行政にもあります。」とアルスゲ博士は指摘した。(05.11.2023) INPS Japan/ IDN-InDepthNews

 

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